デートに誘われたなら byシジジイ

誘ってくれた人が特別な相手でなくても、若くはない女がデートに誘ってもらえたのだから、それに感謝して、必要ならばまず美容院へ行く。
下着もきちんとしたものをつける。これは別になにかを期待してではなく、もう若くはない肉体をしゃんとみせるためである。そのへんの通販で安く買ったような下着じゃもうだめなんである。
着て行くものも慎重に選ぶ。常連さんの多い和食の店でも、トラディショナルなフレンチでも、若い人の多い人気のイタリアンでも、彼に恥ずかしい思いをさせないように、流行遅れでなく、さりとて、あまりにこれみよがしでなく。もし、思うような服がみつからなければ買いに走らなくちゃね。
アクセサリーも重要だ。
洋服が派手なら控えめに。カジュアルな服装ならゴージャス系で。
お化粧は、かぎりなくナチュラルに見せて、しかし、なに一つ手抜きはできない。一週間前から50g二万円のクリームを塗ってコンディションを整える。
化粧水、美容液、クリーム、下地クリーム、ファンデーション。隠し味にちょっとラメの粉もはたく。
まつげパーマをかけたばかりのまつげにたっぷりとマスカラを塗る。
最後はストッキングと靴。ストッキングだって三足1000円じゃだめだめ。上品な網目模様の透明感あるストッキングが必要だ。
靴は、なるべく新品。もしお座敷にあがることになって脱いでも恥ずかしくないようにね。
こうやって、なにもかも美しく装って背筋を伸ばして待ち合わせ場所に急ぐんである。シャンパンが飲みたいな、なんて思ったりしながら。
待ち合わせ場所には妙にくすんだ男が待っている。私より若いといっても、もう大体が中年なのである。何年も前にも見たようなよれよれしたパーカーなんか着てる。(表がベージュで裏が紺色の定番)
「久しぶり!どこ、行く?」
(え〜、この年末に予約もしてないの?)
「まあ、適当に探すか」
大体がチェーン居酒屋になるんである。
もう飲むしかない。生中、チューハイ、日本酒、サワー、なんでも来いだ。今夜は飲むぞぉ!
しばらく飲んでると大抵、今気がついたとばかり
「きれいだね。洋服もよく似合ってるよ。そんなにおしゃれしてくるならもっといい店予約しときゃよかったかな」
今ごろ遅いんだよ。大体、そんな気もないくせに。
この前会ったときもそう言ってたよ。
支払いは言うまでもなく割り勘。まっ、おごちそうになろうなんて期待してないからいんだけどね。
なぜか、貧乏な万年青年みたいな男友達ばかりが多いんである。
一度くらい言ってみろ。
「今日はぼくのおごりだ。好きなもの頼みたまえよ」
すかさず私はギャルソンに言う。
「ピンクシャンパン、ボトルで」
夢である。かなわぬ夢である。