小学生と行く高野山展 byシジジイ

GW直前に、短縮授業のために午後を持て余している四年生の女の子二人を伴って東京国立博物館の「弘法大師入唐1200年 空海高野山」展へと出かけることとなった。
上野までの道々、二人に言い聞かせた。
「あんまりおもしろくないかもしれないけど、国のたからものがたくさん展示してあるから、まあ、我慢しておとなしく観なさい。帰りにはなにかおやつでも食べよう」
「わかってる、わかってるってば、静かに見るよ」
二人はお友達と遠出したのがうれしくて、駅からの道をスキップで博物館へ向かう。

途中、東京都美術館の「栄光のオランダ・フランドル展」のポスターの前で二人の足がとまった。フェルメールの「画家のアトリエ」が使われている。
「ねえねえ、これ写真?それとも絵?」
「これが絵ならすごすぎだよねぇ。写真だよ、きっと」
おいおい、といいたくなるようなかわいい会話をしている。
「これは絵だよ。この絵、観てみたい?」
「うん、観たい」
「じゃあ、帰りに元気があったらこっちへも行ってみよう。すぐ近くだからね」
ありがたいことに小学生はこのあたりみんな入場無料だから、観たいものはなんでも観るのがいいよね。

国立博物館の平成館での高野山展は史上空前というだけのことはあって、ものすごい展示数だ。第一展示室からこれでもか、これでもか、とお宝の山。
「飛行三鈷杵 」にまず、大変心ひかれるがこんなところでゆっくりしていては先が長い。
子供達に「恵果阿闍梨像」を観ながら空海が日本で一番有名なお坊さんだと説明する。自分でも驚くほど子供達にうまいこといろいろ説明できて、なんだか空海の一生がまるで「孫悟空の大冒険」みたいになった。
まあ、いいわな、興味をもつことが大切。

空海は日本で一番字がうまい人なんだよ(小野道風さんごめんなさい)と教えたら、空海の書の前から二人が動かなくなった。
自分たちにも読める字を探しては、熱心にあれこれ小声で話している。おそらく書に造詣の深い方なのだろう、年配のご婦人がそんな二人に実に優しいまなざしを向けてくださっていた。

この展覧会は前期と後期で展示の一部が入れ替わる。
前期の「阿弥陀聖衆来迎図」を観れば、是非とも後期の「仏涅槃図」も観たくなるという仕組みなのだ。
子供達も「仏涅槃図」に描かれた悲しみはわかるようで、前を行ったり来たり、近くに寄ったり離れたりしてしばらくながめている。「慟哭」という言葉を教えてみる。
阿弥陀聖衆来迎図」を見せてやればもっと喜んだかもしれないとも思う。あの極楽往生そのものが描かれているような巨大な絵画。もしかしたら死ぬのなんてちっとも怖くないんじゃないかと思わせるような美しい絵。
まあ、君らは若いからこれからいくらでも目にするチャンスはあるよ。

この後も運慶作の「八大童子立像」に大興奮の二人は、最後に
「いつかさぁ、二人で高野山へ行こうね」
と言いながら、高野山の観光パンフレットを大事そうにバッグにしまっていた。

ミュージアムショップで記念に二人に一枚ずつ好きな絵葉書買ってやることにした。二人が選んだのは曼荼羅の絵葉書だった。