再度、こうの史代
やっぱり書いておこうかな。「夕凪の街 桜の国」
中学生の頃、八月六日に電車に乗ると、乗り合わせた人たちがあちこちで
「あの日も暑かったですいのう」
「ほんまに暑い日じゃったねえ」
とまるでごくあたりまえの挨拶をするように話しているのを聞くことができた。あの頃原爆は過去のことではなく、河沿いのバラックはまだ残っており、身内は勿論、まわりにもたくさんの被爆者がふつうに生活していたし、同級生に被爆二世も何人もいた。
広島に生まれ育った私は、たっぷりとヒロシマの平和教育を施され、いろいろな原爆にまつわる書物を好むと好まざるとにかかわらず、読んできた。目をそらしてはいけないとわかっていても、時には見るのが辛いことも多かった。幼い頃に強烈な体験談や写真を見たせいか、いまだに原爆の夢でうなされることがある。自分がそんな風なので、誰かに尋ねられても原爆についてどんな書物を薦めればいいのかわからない。あんまり急に驚かせるようなものを見せてトラウマにしてしまうのが恐いのだ。
自らも被爆し、家族をなくし、生き残ってしまったことの罪悪感に悩み、それでも若い娘らしい生活をおくりながら、やっと共に生きて行こうという人をみつけた矢先に原爆症で亡くなっていく女性皆実が描かれた「夕凪の街」と、東京で暮らす被爆二世を描いた「桜の国」を初めて読んだ時、作風がどうとか、絵がどうとかの前に、原爆をこんな風に描くことができる人がいたというのが驚きだった。まあ、それを作風と呼ぶのかもしれないが。なんと才能のある人なのだろう。才能ではなく資質というべきなのかもしれない。
私が幼い頃の、おぼろげながらおぼえている広島の街がここにある。初めて、誰にでも自信をもって薦められる原爆のことについて書かれた本をみつけた気がする。
- 作者: こうの史代
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2004/10/12
- メディア: コミック
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