中公新書の森

中公新書通巻2000点を記念して製作された『中公新書の森』を書店でみつけて、さっそくもらってきた。
中公新書フェアを開催中の書店で無料配布中。非売品。


内容は、芳賀徹川上弘美、木戸久枝のエッセイ、奥泉光渡邊十絲子の対談、「思い出の中公新書」アンケートの結果、中公新書全2000点リスト等だ。
「思い出の中公新書」アンケートというのは、いろいろな人に「最も印象に残っている中公新書、人に推薦したい中公新書などを、1から3点挙げ、その理由もお答えください」というもので、例えば、本川達雄先生は『ある明治人の記録』『アーロン収容所』『肉食の思想』の3冊を選ばれている。
アンケートに答えた179名全員の回答が掲載されていて、いかにもな回答があったり、意外な回答があったり楽しい。


新書をあまり読んだ記憶がないし、読んでも、学校の先生の勧める岩波新書がほとんどのような気がしていたのだが、巻末の出版順になっている2000点リストを眺めると、ぽつん、ぽつんと見覚えのあるタイトルがある。ほとんどが若い頃に読んだものばかりだ。


☆『地獄の思想』梅原猛 
 中学のとき『隠された十字架』を読んで夢中になり、梅原猛の本を読み漁った時期に、この本も読んだ。親戚のインテリおじさんに、「最近はどんな本を読んでるの?」と尋ねられ、意気揚々と「梅原猛!」と答えたら、「ああ、あのインチキ本ね」と軽く言われて、大ショックだった。このことは、その後、私が急激に自然科学方面へ傾倒した一つのきっかけとなったような気がする。


☆『発想法』川喜田二郎
 通っていた中高でKJ法が流行っていた。きっとお好きな先生がいらしたのだろう。なんの授業だったか具体的にKJ法を使ったことがあって、こりゃあすごい、なんでもこれで解決するぞ、と単純な私はすっかり気に入り、早速、図書館で本を借りて読み、委員会の壁新聞などを作成する時も、無理やりKJ法を取り入れていた。あまりうまく作用した記憶はないのだが、今でも、ちょっとややこしいことを考えるときには立ち戻る場所かもしれない。


☆『太平洋戦争』上下 小島襄  『学徒出陣の記録』東大十八史会編
 なにがきっかけだったのかわからないが、特に目的があるわけでもなく十代の頃、太平洋戦争に関するいろんなものを、玉、石、かまわず読んでいた。


☆『模倣と創造』池田満寿夫
これはいまも手元にある。


☆『理科系の作文技術』木下是雄
誰かに強く勧められて読んだのだと記憶する。読後の、読んでよかったあ、という気持ちをよく覚えている。大学の卒論以降、理科系として文章を書く機会など一度としてないし、もはや自分が理系であるかどうかも覚束ないが、それでも、これは読んでよかったなと思う一冊だ。

追記 よく読まれている本なので誤解はないと思うが、「理科系のための作文技術」が書いてあるわけではない。私の個人的な雑感だけを読むと、そう読めてしまう気がしたので、念のため。


☆『ゾウの時間 ネズミの時間』 本川達雄
ちょっと前の「壁」や「品格」の新書ブームの折にも、一冊も新書を読まなかった私にとっては、いちばん最近読んだ新書だ。1992年に出ている。読んだのはもう少し後だったと思う。
人間時間ではずいぶん寿命の長さが違うゾウとネズミだが、一生の間に打つ脈拍の数は同じで、それぞれの固有の時間ではおなじだけ生きてるんだよというのは、はっきりとは掴めないが、なにかとても深遠なものを含んでいるような驚きの発見だった。その驚きをまだ幼なかった娘にも教えてやりたくて、絵本の『ゾウの時間 ネズミの時間』も買ったのだが、もちろん、子どもには無理だった。


川上弘美のエッセイに、『宦官』とか、パール・バックの『大地』とか、纏足とか、紫禁城から宦官たちが泣きながら出てくる話とかが出てくる。川上弘美とは、年が近いこともあり、いつも繰り返し、同じ頃、同じような本を読んでいたことを確認することになる。そして、彼女がそれらについて書いたものを読んでは、そうだそうだ、と思うのである。思ってるだけではいけないのに。