風俗画家としての晴雨 byシジジイ

以前にも伊藤晴雨について書いたが、再び、伊藤晴雨
「責め絵の晴雨」があまりに有名で、なかなか評価されることが少ないが、(評価されているけど話題にのぼることが少ないと言ったほうが正確かな)、晴雨の江戸風俗に関する仕事も、責め絵に負けず劣らずおもしろい。

ここのところ寝る前に数頁づつながめているのが、
「江戸と東京 風俗野史」 伊藤晴雨国書刊行会
である。
この本は、伊藤晴雨著『江戸と東京 風俗野史』全六巻及び一枚刷りの「稿本 江戸と東京風俗野史図絵」全八枚と、同著者による『江戸の盛り場』全一巻を一冊に集大成し復刻した、と凡例にある。

様々な行商、見世物、役者、玩具、民間信仰の数々、障子のあれこれまで、ありとあらゆる風俗が描かれている。
明治の東京に残る江戸の風俗を絵筆で表現しただけでなく、それぞれに晴雨の洒脱な説明文がついていて、それを読むのも楽しい。
例えば、イカサマ物について書き連ねた最後に、
「珍物々々、汝永久に健全なれ」
などと書いてあって、おかしい。
晴雨の文の他に、多くの丁寧な注がついているのも、ものを知らぬ身としては助かる。


「江戸の盛り場」に晴雨自身が附けた解説に「がんりき」というのが出てくる。

〜筋違見附、即ち今の万世橋から須田町附近を八辻ケ原といって、此処に維新前に「がんりき」が居た。「がんりき」即ち眼力で満身の力を両目に集めてウンと云うと不思議にも一時に両の眼球が飛び出すのだ。それへ紐や綱を附けた大石を引っかけて持ち上げるのである。〜

そして勿論、その「がんりき」の、思わずうそぉ、と言ってしまうような絵が載っているのである。たまげるような絵だ。
他にも、いまや影も形もというか、そんなものがあったのすら全く忘れられたものがわんさか載ってる図録で、どこから開いてみても楽しめる。

最後に無知をさらすようですが、ほとんど歴史小説を読まない私は、この本ではじめて、「ちょき船」というのが「猪牙船」なのだと知った。この言葉、耳から入ることはあってもどんな字を書くのかなんて考えたこともなかった。チョキチョキ進むから「ちょき船」っていうのかなぁ、って思ってました。考えてみれば、チョキチョキ進むってどんな船だ?!