私を養老天命反転地につれてって byシジジイ

朝からきわめつけの曇天。大気は飽和状態寸前まで湿気を抱え込んでいた。

その日は、ひっそりとした裏通りの小さな一軒家のレストランで、昼間からシャンパンを飲もうというセンチメンタルで自堕落な企画だったのだけど、予約した店には残念ながらスパークリングしかなかった。お料理は勿論、サービスも雰囲気もお値段までもがほどよく申し分のないお店だし、いまどき、ランチの客のためにシャンパンをグラス売りしていたのでは、良心的であればあるほどすぐに店を畳むことになってしまうから、文句をいうようなことじゃないし、もしどうしてもシャンパンがよければボトルで頼めばいいのはわかっていたんだけど、ちょっと、それはあんまりわがままで、若い彼を前にして気恥ずかしいのでやめた。

前菜に添えてあった、この時期だけフランスから空輸される土筆のような形の野生のアスパラガスがおいしい。
なぜか「ポーラX」のカトリーヌ・ドヌーブを思う。あの破滅息子をお供に野生のアスパラガス摘みに行ったりしたかもしれない。

赤ワインも飲んで少し気持ちよくなり、お腹も満たされ、南青山の岡本太郎記念館へ向かってぶらぶらと歩く。人がたくさんいて驚く。川崎の岡本太郎美術館に行った時、広く美しい館内にほとんど人がいなかったのを思い出す。そういえばあの時は雨が降っていたんだっけ。
展示より画材などが無造作に置かれたままのアトリエにひかれる。それは同行者も同じ思いではなかったかと思うのだけど、どうでした? 庭には立派などくだみ草がたくさんはえていて、白い花を咲かせていた。

さて、そろそろ出ましょうか、というときになって思いもかけないものを見つけた。
「心のテーマパーク 養老天命反転地」のチラシ。下駄箱のところに置いてあった。
もう何年もまえに建築科の学生に「軍艦島」の写真見せてもらった時に、一枚だけここの写真が混ざっていて心にずっとひっかかっていた。悪いくせでメモをしておかないから、どこにあるのか、なんというところなのかわからないままになっていた。
岐阜にあるのか。

荒川修作と詩人のマドリン・ギンズが30数年に及ぶ構想を実現した体験型のアート作品と紹介されている。すべて斜面で構築されているのでゴム底靴などの動きやすい靴で入園してくださいと注意書きがある。ハイヒールじゃだめそうだ。
すり鉢状の庭園に「もののあはれ変容器」とか「白昼の混乱地帯」とか「宿命の家」などがあるらしい。
行きたい。だれかつれていって。
何年も履いたことのない「ゴム底靴」探しておかなくちゃ。どこにしまったかな。

それで、昼間からスパークリングと赤ワイン飲んだ二人がどうしたかというと、その後、ビール飲んで、焼酎飲んで、日本酒飲んで、バーボン飲みました。