涌水の町 byシジジイ

清冽な湧き水が流れる町へ行った。実に澄んだたっぷりとした水が、あまりにも猥雑で俗で、あちこちで鰻を焼く匂いのする古くさい町を流れる。それが、私の夢によく出る町と似ていて驚く。

子供の頃、喘息の弟のために夏休みには毎年共に預けられていた山の奥の村も思い出した。村の中を細い水が流れ、その透き通った流れのなかをときおりヘビが泳いでいた。
私と弟は時々その村のはしっこにある流れの速い川に洗濯に行った。シーツのはしっこを弟とにぎり、川のまん中で濯いだ。足が冷えると夏の陽に照らされ熱くなった川原の石の上で温めた。その村へ行くと弟のただれた首やひじの皮膚がみるみるつるんときれいになっていった。
アレルギーがひどく、喘息で苦しんでいる小さなお嬢ちゃんと知り合いなのだけど、いつも、あの村へ連れていってあげられたらよいのにね、と思う。しかし、あの村もいまは高速が通り、小綺麗なクアハウスが出来、蛍が乱舞することもなくなったと聞く。

流れる水のそばで暮らしたいと思う。大きくも深くもない、しかし、早い流れが好きだ。涌いてすぐの水の流れに自分でも不思議なほど強く魅了される。美しい水はどれほど見ていてもあきるということがない。タルコフスキーの映画のように。