売れっ子と新人

アルバイトのために石田衣良の本を読んだ。ほんのたまになのだけど、私はマイナーな沿線情報誌に本の紹介文を書いている。主婦のバイトとしてはなかなか効率がよいバイト料をもらえるので大好きなバイト。大好きだけど紹介する本にいろいろ制約がありチョイスが難しく、次から次に紹介するわけにはいかない。

てのひらの迷路

てのひらの迷路

24編の十枚程度の短編がおさめられた本だが、その短編のそれぞれにエッセイ風の前書きがついていて、作者がその短編を書いた動機とか、元になったエピソードとかがわかる仕組みになっている。
「耳元で囁くように、書きました。」と帯にあるように、確かに、作者である石田衣良の生の声が聞こえるような気がする本ではある。読んでいる間は、ふーん、売れっ子作家ってこんなふうに作品を書くんだ、と納得するのだが、そのあまりのわかりやすさに、前書きも含めてひとつの作品としている作者の計算を思わず勘ぐりたくなるような本でもある。勘ぐった後で、いや、勘ぐるほど難しい話でもないし、もしかしたら案外こういうのが作者のほんとのとこかもしれないぞ、と思ったりもする。
ファンタジーあり、SFあり、私小説風あり、恋愛小説ありで飽きることなく、あっという間に読み終わる。
退屈はしないけど、読んでも読まなくてもさほど影響はない本であるような気がする。


文学界12月号で、第101回文学界新人賞受賞した『さりぎわの歩き方』中山智幸を読む。
でもこれについてはなにも言えない。まだ本として出ていないのだし、作者や作者の周りの人が、本が出て話題になって一冊でもたくさんの人に読んでもらえたらいいのにと思っている段階で、なにか言うのはフェアでない気がした。何に対してフェアじゃないと感じるのかよくわからないのだけど。
石田衣良の本はなにがなんでも売れる。現にどこの書店でも「てのひらの迷路」は平積みだ。この扱いは今回の作品の出来がいい悪いではないのだ。作家としての実績だ。揺るぎない読者からの支持だ。
だから私ごときが何を言ってもかまわないと思っている。ごまめのはぎしりにもならない。