白夜行

白夜行 (集英社文庫)

白夜行 (集英社文庫)

徹頭徹尾、情に流れない小説だ。昼間の陽を浴びることなく、心をなくしたまま薄暗く寒い白夜の中を歩き続ける主人公二人の十一歳から三十歳までの物語なのだが、作中で彼らが悲しいとか寂しいとか、恨みつらみを口にすることは一度もない。ただ、周りの人によって目撃された二人の十九年間が描かれるだけだ。主人公の独白が全くない小説なのだ。当然、犯罪の動機や、犯人しか知らない手口が読者に語られることもない。
十九年の間に二人の間にあったであろうことも一切描かれない。なぜなら、目撃者がいないからだ。
小説の構成としては、ひとつひとつの犯罪を連作短編として書き、それをつないで長編にしているのだが、それにしてもよくこの手法でこの長い物語を書いたものだと驚く。

この小説は文庫で854ページもある。しかし非常に早いペースで読み進めることができるのであっという間に読める。一文が短く、素直で平易なのでどこといってひっかかることもなく読み返す必要もなく、面白さに先へ先へと進みたい気持ちと同じスピードでページを繰ることができる。


たまたまつけたテレビで、子役の女の子がシリアスでインパクトのある演技をしていてひきこまれてついつい最後まで見たのが、この小説のドラマ化の初回の放送だった。それはそれでおもしろかったのだが、こんなに計算された構成と手法で書かれた原作ならば、なにも知らないで読みたかったと思う。


今日、バイト先の近くの三省堂で若い男性が二人で、この小説おもしろいらしいね、でもこの厚さじゃ腰がひけちゃうな、と話しているのを聞いて、「すぐに読めるよ。おもしろいよ」と教えてあげたかった。