嘆きのスタイル

小林かいちの世界―まぼろしの京都アール・デコ

小林かいちの世界―まぼろしの京都アール・デコ

よみがえる謎の画家---------小林かいち

経歴不明のまぼろしの画家、
小林かいちの華麗な
絵葉書・絵封筒作品の饗宴-------
京都を舞台に繰り広げられた
過激にしてエレガントな
アール・デコ世界を集大成!     (帯より)

父の二人の姉、つまり私の伯母たちはアール・デコ派だ。彼女らが長年愛用しているものをみていると、アール・デコってなんだか素敵だ、と思う。コンパクトケースとか鏡とかジュエリーボックスとか、乙女の持ち物はやはりアール・デコ調に限る、と思う。しかし、私自身はついつい、実用一点張りのものを使っていたりする。
特に一人の伯母は、今でも引き出しの中に、きれいなハガキや封筒、千代紙、ハンカチを大事にしまっておくような人だ。七十半ばを過ぎ、なお豊かな黒髪の持ち主で、毎晩長い髪をピンカールという、いまや無形文化財級の技で整え、お出かけしない日も、常に髪は美しい縦ロールを維持している。


小さな頃、実家にはこの伯母も住んでいて、缶の中にしまってあるリボンやボタンなど美しいコレクションをいつもそっと見せてくれた。伯母の部屋には絵葉書もたくさんあった。今思えば、夢二や、東郷青児や、それに影響を受けた画家のものだったのかもしれないが、小林かいちの本を見ていると、まるであの頃見せてもらったものが、小林かいちのものだったような気がしてくる。


小林かいちの描く女性は、皆嘆いている。両手で顔を覆いうつむいて嘆く。窓辺に座り、膝に顔を埋めんばかりに身体を折って嘆く。まるで女優が舞台の上で演じているかのようなこのお決まりのスタイルで泣く女性は、現実にはいないと男の人は思っているのじゃないだろうか。
そう、確かに、人前でこんな絵に描いたようなスタイルで泣く女性はいないかもしれない。なぜなら、嘆きが演出されたものに見え、ウソくさくなるから。女性はいつも、自分の涙がいかに真実かということを男性に訴えたいものだから。


でも、誰も見ていない時に女は、このスタイルで泣く。
両手で顔を覆い、うつむいて泣く。
あなたの前では、女はほんとうには泣いていない。