ゴーレム100

ゴーレム 100 (未来の文学)

ゴーレム 100 (未来の文学)

ずいぶん書きそびれていたのだけど。7月6日の三省堂トークショーに行ってきた。

アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』刊行記念
柳下毅一郎さん・滝本誠さんトークショー
「ゴーレム降臨!――アルフレッド・ベスターに始まるSF史」

前半、滝本さんの個人的SF史のような話から始まったのだが、世代的に私にとっては新しい内容のものではなかったので、ちょっと眠くなってしまった。滝本さんは「クロワッサン」の創刊のときの編集者のお一人だったそうで、SFの話よりも、むしろそっちのほうが、そうか、こういう方があの雑誌の創刊に携わってらしたのか、と感慨深かった。
柳下さんの「ベスターはどれもベタベタのラブコメだ」に深くうなずく。

ゴーレムなりベスターの話がもっと聞きたいなと思っていると、突然、「訳者の渡辺佐智江さんがいらっしゃってます」ということで、渡辺さんが前の席に移動。あー、この女性こそが、あの強烈なあとがき書いた方かと思わず身をのりだしてしまった。しかもこの方「そのへんにいた山形浩生に解説執筆を命じ」た人でもあるのだ。さもありなんの風情。
驚いたことに、渡辺さんだけでなく、若島正先生までも一緒に前の席へ。これで、ゴーレムやら、ベスターやらの話が弾むぞ、と期待したが、柳下さんのお行儀のよいインタビューにも渡辺さんの反応がいまひとつ。そこへ、今度は、会社帰りのスーツ姿で七三分けの山形浩生さん登場。なんだこのナイスミドルっぷりは!


というわけで、時間とともに豪華メンバートークショーとなったわけだが、さみだれ式参戦だったので、特に話しに流れがあるとか、なにかについて深まっていくということはなかった。それぞれの参加者の気になった発言に、私自身が感じたことを併せて記しておく。


若島正
☆『TIGER! TIGER!』を読んだのが、小説を読む全てのきっかけになった。
ちなみに、なぜベスターを読んだかというと、将棋部の友人が、SF読むならABC順に読めと教えてくれたからだそうで、Aはアシモフ、Bがベスター、ブラッドベリ、Cがクラーク、Dがディック、Eがエリスンと続く。この話は私も誰かに聞いたな。

☆『ゴーレム100』は出るはずもないものが出て、めでたい。

☆ベスターとディックは基本的にははったりの人なのだが、ベスターにははったりのようで本当の話があったりする。なまはんかでない知識で書いているので、読むのはいいけど翻訳はたいへん。

☆ベスターは、もっともしゃれた会話を書くSF作家だ。


柳下毅一郎
☆ゴーレムを読むと、イラストやタイポグラフィーにおどろかされるが、こういうことは初期からやっていた。
これについては、私も思っていたことで、ゴーレムがこのことにおいて新鮮であるということはない。『虎よ、虎よ!』でもそういう手法は使われている。ただ、早川文庫の紙質と大きさで見るそれと、今回のそれでは全く違うので、『虎よ、虎よ!』をあらためて読み直すとき、新たなる視線が入ることになり、そういう意味でも、今回の『ゴーレム100』がこういう形で出たのはよかった。


渡辺佐智江
☆こんなに待っている人のいる本を訳するのは初めてで、ベスターは幸せだなと思いました。
☆かかりっきりで45日で訳しました。


山形浩生
柳下さんの「どうして山形、(訳を)やらなかったの?」の質問に答えて。
☆最初20ページくらいやってあったんだけど、最後の数ページが今のオレには無理だな、と思った。
☆ゴーレムが出ただけで感激。


今回は珍しくトークショーまでに読了していた。手に取った瞬間、厚い! と思っても、おもしろくて、ぐいぐい読める。そして変色しかけた『虎よ、虎よ!』も引っ張り出して再読。こちらは、最後に浅倉久志さんの「十年に一度の傑作」というタイトルの解説がついている。その解説の最後の一行が、〈近く新作長編“Golum 100”が出版されるというニュースもある。〉でしめくくられている。