『大奥』第三巻

大奥 第3巻 (ジェッツコミックス)

大奥 第3巻 (ジェッツコミックス)

今日の日まで、マンガ読んできてよかったな、と思わず言いたくなるようなおもしろさである。


若い男ばかりが死ぬ流行病によって、男女の人口が極端にアンバランスになり、世の中の男女の役割が逆転せざるを得ない中で、大奥も男女が逆転してしまう。そんな男女逆転大奥が既に定着している吉宗の時代を描いたのが第一巻。その一巻の最後で吉宗が男女逆転の謎解明に乗り出し、話は第二巻で家光の時代に遡る。二、三巻では将軍はまだ男であるのが前提なのだが、なにがなんでも家光の血をひくお世継ぎを望む春日局の暗躍で、はからずも男女逆転大奥の礎が築かれ始める。


不覚にも、三巻を読み始めてすぐに家光(千恵)に思いっきり同情しそうになった。しかし、読み進めればそれは愚かというもので、読者のやわな同情などはねつけるほどに家光は強くなり、三巻の終わりでついに男であると偽るのをやめ、女の姿で将軍として皆の前に出る。
有功と家光との関係も、有功がぎりぎりのところで踏みとどまり、己を御し、せつない愛を守り通すのに比べ、家光は自分が成長することで、余裕すら見せながら有功へのひりつくような愛をゆるがぬものとしていく。この少女家光が大人になっていく瞬間、瞬間が、冴えわたるよしながふみの手腕で描き尽くされる。純愛というのは結局は自分の相手への思いを確認することだなと、純愛の名手よしながふみを読んでいつも思う。


よしながふみのストーリー運びは完璧である。今回三巻を通して読んで、ああ、こういうことだったのか、とあらためてまたそのすごさに気がつくことも多かった。人物造形、心理描写、登場人物の表情のドアップコマ挿入などの技、どれをとってもため息がでるばかりだ。
フラワー・オブ・ライフ』など読み返しながら、もう、ひたすら四巻が出る日を待つしかない。