ムンク展@国立西洋美術館

正直、いまさらムンクでもないか、と思いつつ、冬休みに入った娘にせがまれ、年末に行ってきた。娘はちょうど有名な画家の絵が見たくてたまらないお年頃だ。

娘のお供で出かけたムンク展だったが、行ってよかった

今回の展覧会は「装飾画家」としてのムンクという観点で構成されており、ムンクが晩年、エーケリーのアトリエで自分の作品を並べて装飾的な壁画となるよう試みた展示が、写真を元に再現されている。
そこには、多くの人が持っているであろう「叫び」をメインイメージとした病んだムンクの要素はあまりない。よく知っていると思っていた画家の作品に、今回ほど新しいものを感じることは今までにない体験だった。


「キュレーター」なる存在をうるさく感じる美術展というのが増えている気がする。見終わった後で、もっと素直にこの画家なり写真家の作品をそのまま見せてもらえばそれでよかったのにな、と思うことがある。
そういうことからいえば、今回のムンク展は大成功の企画だったといえるのではないだろうか。娘のようなムンク初心者も、その母親の世代のすれた見学者も満足させる切り口だったように思う。


ところで、会場に入ってすぐ有名な『吸血鬼』が展示されていた。赤い髪の女が顔色の悪い男のうなじに口をつけている絵で、タイトルがタイトルなので、女が血を吸っているのだろうと疑いもせず思ってきた。しかし、会場にあった説明によると、このタイトルはこの絵を見た詩人がつけたタイトルであり、ムンク自身は、単に女が男のうなじにくちづけしている絵に過ぎず、このタイトルではあまりに文学性が付加され過ぎると抵抗を感じていたらしい。

この説明を読んだ途端、絵が全く違うものに見えた。単に「女が疲れ果てているかのような男のうなじに口づけをしている絵」だったんだと知った瞬間、この昔からよく知っている絵が初めて心に沁みた。
タイトルに左右されて絵の本質が見えないのは、私の見る目のなさではあるのだけど、この経験だけでも来てよかったなと思える展覧会だった。