薦める

本やマンガや作家や詩人や歌人を、誰かに薦めるのが年々苦手になっている。
どうしてだろうと思っていたのだが、最近うれしい体験をして、ちょっと手がかりができた。


考えてみれば、「この本、おもしろいよ」と薦めるのはそれほど苦手ではないのである。
薦めたものが、相手のお気に召さなかった場合も、そんなことは昔からしょっちゅうあることで、別にどうってこともない。


問題は、「ああ、これがすごい」とか「なにがどうだかわからないけど気に入った」とか、直感的に感じたものを薦めて、しかも、相手がそれをある程度評価した時だ。

こういう時に、「よくできた作品だね」とか、「構造的にうまいね」とか、「学ぶべき点は、ここだね」とか、薦めた作品を分析され、「アナタが薦めたのもわかるよ」的発言を聞くと凹むのだ。
さっきまであんなに瑞々しかった作品から、水分を強奪された気がする。
そこに私が凹む理由はないけど、なんだかがっかりしてしまうのだ。
年齢とともに、このがっかりに対する耐性が落ちていて、辛いのだろうと思う。


作家や、作品に共振して、それを誰かに教えたくなる。教えた相手が、やはりその作品に共振する。私の共振と彼の人の共振は違っているかもしれないけど、それでも、同じものを読んで震える。
そのことが私にとっては、薦めたり薦められたりの、幸せな完成形なのだろう。