「舟越桂 夏の邸宅」展@東京都庭園美術館

八月の初めの激しく暑い日に、目黒駅から庭園美術館に向かって歩いていると、手前の交差点のところまできて、急に涼しく感じた。かすかではあるが、気のせいなどでなく、確たる涼感だ。
そうか、森だ。森と水があるから涼しいんだ。庭園美術館を囲むように広がっている自然教育園の恩恵だ。


舟越桂は、何年か前、2004年か2003年か、東京都現代美術館で大きな展覧会があって、そこで見て以来。
舟越桂への入り口は、天童荒太の『永遠の仔』の表紙だった。
木彫なのだが、あまりに不思議な目だった。本物をたくさん見てみたいという気持ちに突き動かされて、清澄白河まで出かけていった。
あの頃、ほとんどの作品が、思索的で、ひたすら個人の内面の孤独を形にしたようなものだった。現代美術館の白く広い空間の中で、どの作品も不安げにたたずんでいた。


しかし、今回、庭園美術館で見ることができる新しい作品群はずいぶん印象が違う。スフィンクスのシリーズがいちばんわかりやすいのだが、明らかに不安が個人的なものから、社会的なものに変化しており、以前より明確なメッセージを作品が発信している。


舟越桂も年をとったのだな、と思った。
年を取るとみんな、なにかが言いたくなるのだ。
けれども、舟越桂はあくまでも静かだ。
戦争を描かなくとも、「戦争をみるスフィンクス」という作品を見れば、誰もが戦争について考える。
そういう静謐な物言いに憧れる。


そして、意外なことに、メッセージ性の強い作品のほうが、アール・デコ装飾に彩られた旧朝香宮邸という舞台に、よく似合っていたように思う。
会期は9月23日まで。

東京都庭園美術館 「舟越桂 夏の邸宅」展


永遠の仔〈上〉

永遠の仔〈上〉