燭手の一族

ネット上で自分の創作したものを公開したことはないのだけど、考えてみれば、いつもここで、自分は小説を書いていると言い張っているのに、ここを読んでくださっている方には、私がどんなものを書いているか、これっぽっちもわからないわけで、照れくさいのだけど、初めてアップしてみようかな、と思い立った。


この作品は先日の超短編イベントに応募したもので、いつも書いているものとは長さも、内容も全く違う。
また、自由課題ではなく、山下昇平氏創作のオブジェを見て湧いたイメージを作品にするという規定課題なので、先にオブジェの写真を見ていただくといいかもしれない。

   燭手の一族 
             
 我等一族三万余手、生ける燭台の煌めきが、館を水晶宮のごとく輝かせ、多くの客人を迎えた、姫さま十六歳の誕生日のことは、確かにそうであったことなのに、もはや、霧散する寸前の蜃気楼のように儚い記憶でしかない。
 あの日、我等の重用を快く思わぬ者どもの愚策は、すみれ色のドレスだけ燃やすはずが、姫さまの顔までをも焼きつくした。謀られたこととはいえ、我等の灯りが元となった惨事。当主さまの沙汰を待つことなく、我等は館を出て、流浪の身となった。どれほどの時が過ぎたのか、命ある同族の者にはもう幾年も会っていない。
 寝台の上では年老いた女が、朽ちかけた毛布の下で、弱く浅い息をしている。爪をはがし、傷だらけで、這うこともままならず道端に転がっていた私を拾ってくれた女。若い頃、館の奉公人だったという。死の床にあって、初めて女は私の灯りを所望した。
「姫さまのためにしか、灯ることのなかったおまえさまに照されて死ぬなんて、私は幸せ者だよ」
 深い後悔が私をおそった。ああ、この女の夜毎の貧しい食卓を、なぜ私は照らしてやらなかったのか。私は窓辺に寄り、我が全てを燃やした。せめて精霊が、女の消えかけた魂に気づき、星に導いてくれるよう。