『虚構機関』

虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

「2007年の日本SFの精華 選りすぐった16作を収録」


一気に読むのが惜しくてぼちぼち読んだのだが(最近の、おそらく加齢による読書スピードの劇的な低下を素直に認めたくない気持ちが、こういう言い訳をまず一行目に書かせるのである)、円城 塔と伊藤計劃の作品がやはり群を抜いているように感じた。
この若い二人の作家を思うとき、いつも、イーガンとチャンのことを思う。
そして、スペシャルA定食(ハンバーグと海老フライとクリームコロッケとポテトサラダとナポリタンが一皿に載っている豪華定食だ)の絵が脳内に浮かぶ。


サイバーパンクの後、漠然とした満たされない感を抱えて、ずいぶん長いこと、何を待っているかわからないまま、何かを待っていた。
いろいろなもの、例えば、ハンバーガーとかスナック菓子とかサンドイッチとか食べていたから、空腹で死にそうだったわけじゃないし、それなりに好物もあったのだけど、でも、なんかもっとガツガツ食べたくなるようなものが欲しかった。だから、イーガンとチャンを読んだ時、久しぶりにスペシャルA定食にありついたような気がして、夢中で食べた。
食べ応えがありすぎるほどあった。
円城 塔と伊藤計劃も、国内SFにとって、そういう存在であるのだろうと思う。
いや、もちろん、スペシャルA定食である必要はなく、カツ丼でも、焼肉定食でも、なんでもいいのだけど。


円城 塔の『パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語』はかっこいい。
このアンソロジーにあって、彼の文章は、シリウスのような青白い輝きを放っている。


伊藤計劃の描く近未来の終末さかげんは、救いのない恐ろしさで、しかし、そこではフツーに日々が続いていて、つい引き込まれるように読んでしまう。


しかし、このアンソロジーの中でSFらしい作品ということになれば、八杉将司の『うつろなテレポーター』と林 譲治の『大使の孤独』かもしれない。特に、『大使の孤独』は宇宙モノだし、未知の知性体との遭遇モノだし、今となっては新鮮なほどに正統SFだ。
他には、北國浩二の『靄の中』も好きだな。