芝居二つ

最近、滅多に芝居を観ることがなくなったが、この夏は珍しく二つ観た。


☆『マクベス』 子供のためのシェークスピアカンパニー  於 紀伊國屋サザンシアター

子供のためのシェイクスピアとは
1995年から毎夏上演している、子供から大人まで多くのファンを持つシェイクスピア劇のシリーズ。机と椅子などのシンプルな舞台装置と黒コートの集団、シェイクスピア似の人形の登場や音楽代わりのクラップ(手拍子)、「子供のため」と言っても、決して手抜きをしない真剣な演技と遊び心満載の演出で、演劇を初めて観る人から評論家まで幅広い人々の支持を得ています。

マクベス』のマの字も知らない娘を連れて出かけたのだが、話もよくわかったようだし、しばらくの間、劇中で繰り返し使われたクラップや、タンキングというのだろうか、舌打ちのような音や、「マークベス、マークベス」という印象的なセリフ回しをなにかとマネしていたので、少なくとも彼女の経験のなかに『マクベス』がプラスされたことは間違いないらしい。


たった8人で演じられる『マクベス』では、役者さんがセット代わりの机に上がったり下りたりが頻繁に繰り返される。そのことが次々と場面転換をしていくのに近い効果を生み出していて驚く場面が多々あった。
途中挿入される、イエローヘルメッツの食事場面も楽しい。そういう場面があることは、子供向けに休憩が入っているというよりも、むしろ子供たちに、目の前で生身の人間が演じることの面白さや価値を伝えることになるのだろう。
最初から最後まで、「子供のため」と銘打たれた公演にありがちなダサさや臭みを全く感じなかった。



☆『阿房列車』 元祖演劇乃素いき座  於 アトリエ春風舎☆
内田百けん 原作  平田オリザ 作 土井通肇 演出
内田百けんの原作『阿房列車』を平田オリザが、役者のお二人(土井通肇、森下真理)のためにあて書きした作品だそうだ。

役者は三人。老夫婦と若い娘。
原作では、百けんや百けんのお供のヒマラヤ山がしゃべることを、舞台の上では夫がしゃべったり妻がしゃべったり、若い娘がしゃべったりする。
百けんの本を読んでいると、ついつい頭の中が全部百けん仕様になるのものだから、不思議なことも筋の通らないことも、妙なことも、みな、なんだか納得して読むのだが、それを、目の前で役者がしゃべるとなると、実におかしい。どのエピソードもとても納得できないようなおかしさだ。
おかしいので、観客はずっと笑いっぱなしだ。
笑っているうちに列車は進む。


うっかりすると、どこへ列車は向かっているのだろうかと、セリフの端々から考えたりするが、この芝居はそういう話でもなく、だいたい、列車の座席ではなく、公園のベンチに三人で座ってるだけの話のようにも思える。
これといってストーリーはなく、同じ話題で話がはずむわけでもないが、人間ってこういうかみ合わない話をしながら日々を過ごしているなあと思う。人の話を聞いているようで聞いてないし、応えているようで応えていない。
それでも、案外話をしていれば退屈しないものだ。
そうこうしているうちに幾年もが過ぎ、年をとり、旅は終わっていくのだ。
アハアハ笑っているうちに、ちょっと物悲しくなり、そして、いやまあ、一生というのはそういうものなのかもな、と考えたりする。

1991年初演で、今年で19年目とのこと。

http://www.komaba-agora.com/line_up/2009_08/ikiza.html


次回公演は、『虫たちの日』 別役実作 土井通肇 演出
2010年3月19日〜21日 アトリエ春風舎